冷凍都市のくらし、アイツ姿くらまし

独立して5年経った個人事業主のあれこれ

ワンパンマンの盛衰に見るクリエイターのモチベーション

ワンパンマン作者oneの才能が一番光輝いていたのは、間違いなく、まだ村田から声を掛けられる前に自分一人でシコシコwebサイトでマンガ描いてた時だったと思う。あくまで自分の勝手な感想だけど、まだ何者でもなかったoneが一番良かった。

 

もう8~9年くらい前になるか。初めてoneのwebサイトでワンパンマンを見た時、その当時の下手なジャンプ作品よりよっぽどイキイキとテンプレのジャンプしてる感じが凄く良いなって思った。二番煎じの一言で言っちゃえばそうなのかもしれないけど、微妙な時期がずっと何年も何年も続いてたスクエニブレイブリーデフォルトを出した時の「そうそう!これよ!こういうのでいいんだよ」感みたいな、一種の閉塞感を打ち破るようなものがワンパンマンにはあった。(※なおブレイブリーセカンド黒歴史とする)

 

サイタマはいっつも余裕綽々でボス敵を倒すから、サイタマ自身の努力についてはほぼ描かれないけど、代わりに同じヒーロー仲間達の描写で努力を見せるし、友情と勝利も勿論やってる。

 

ジャンプってさ、強いはずのベジータとピッコロが負けて、最後は悟空が苦戦しながらも逆転してやっぱり勝つわけじゃん。それが様式美じゃん。ワンパンマンも、最後はサイタマが出てきてあっさり勝つけど、それ以前にベジータとピッコロにあたるキャラの強さや努力を適宜伝えて、苦戦させてから、あるいは超アッサリと負けさせることで、ほぼドラゴンボールと同じ様式美を成り立たせてるわけじゃないですか。結局最後はドキドキワクワクの末の待ってましたと言わんばかりの安心感や爽快感を読者にしっかり伝えてくれるじゃないですか。

 

っていうか、もっと言ってしまえばラッキーが実力に置き換わった、ラッキーマンそのまんまってことじゃないですか。

 

ラッキーマンは努力マンがラッキーマンの代わりに努力すんだよね。そこで努力マンが一皮剥けて強くなって、読者がおおーってなって、でもやっぱり新たな強敵に負けて、やべーって時にラッキーマンがアッサリとラッキーでボス敵をやっつけていく。努力マン=ジェノスね。あるいは、ジャングルの王者ターちゃんのペドロ=ジェノスね。

 

で、ずっとそれの繰り返しだとやっぱつまんないから、ガモウはちゃんとスーパースターマンとか勝利マンとか友情マンとか天才マンとか世直しマンとかの人気の出る分かりやすく印象的なキャラを敵味方問わず作ったし、ワンパンマンもキングとかアトミック侍とかアマイマスクとかタツマキとかガロウとかでほぼ同じような構図のものを作り上げた。キャラの背負ってる背景もなんとなく似てるよね。

 

ハンターハンターの幻影旅団しかり、ラッキーマンのヒーロー達しかり、ダイの大冒険の六軍団長しかり、バスタードの四天王しかり、ブリーチの護廷十三隊しかり、やっぱり作品自体の人気を出す為には凄く大事なんだよね。場合によっては主人公が出るよりもよっぽど彼らが誌面に出てる時の方が読者が盛り上がるような魅力的なキャラ群って。んで、んなことは作家も読者もテンプレとして誰しもがとっくに分かっちゃいるけど、実際その魅力的なキャラ達を作り上げるってのは、これまた本当に難しいと思うし。もうそこが少年マンガ作家としての実力と言ってもいいぐらいに。

 

で、ワンパンマンラッキーマンの様式美に沿って、しっかりそこを別の世界観でやり遂げようとしていた。し、多分、村田がガロウ編がほぼ終わりかけてたあそこで声かけてなかったらもっともっとそこを掘り下げた所を今でもスピーディにやってたと思うんだよな。

 

oneがずっとやりたかったことって、確かにガロウ編で一通り表現し終わったと思う。それってベルセルクでいえば、グリフィスが鷹の団を贄に捧げた蝕のシーンみたいなもんで。三浦健太郎も間違いなくアレがまず最初に頭の中に浮かんだゴールとしてあって、あそこ目掛けてベルセルクを描き始めたんだと思うんだけど、たぶんoneの場合はガロウ編がそれに当たる。

 

で、その次よ。ここで誰しもが一旦しぼむんだよ。大抵は。もう作者の頭の中でずーっとここを描きたい描きたいってそれこそ作品を書き始める前からワクワクドキドキしていた目標なワケだからさ。そこを描いてしまったら後はもう5月病よ。東大に合格するのがずっと夢だった受験生と同じよ。苦しみながら消化試合してさ、そりゃガッツも平和なパーティ作ってシールケとイチャイチャする優しいオジサンになっちゃうわ。

 

でもきっと金もなければプロでもない時の、例えweb上では一部から絶大な人気を誇っていたとしても社会的には未だに何者でもなかった時のoneだったら、こっから更にコンテンツをもう一捻り面白くできたと思う。今の百倍スピーディに。ガロウ編を書き終えた後も、「もっともっとこれを面白くして俺はプロになるんだ」とか、そっから先のまだ為し得ていない壮大なゴールが人生の目標としてあったと思うから。

 

でも、そこでプロになっちったから。今もう村田版が19巻出てて大体2000万部近くいってんだっけ?oneもう億万長者よ。しかもやりたいこと一回出し尽くしちゃったし。

 

プロになって、何億円も手に入って、しかも今まで趣味みたいに自分のやりたいこと素直にやってた作品の延長線がいきなりガチのジャンプコミックスになって一気に商業フェーズ入って、アニメ化されて、何十万人の読者に金払ってもらったら変なプレッシャーもドバドバやろうし。したらもうキツいよな。あれこれ考えまくって止まるよ。作品としての構成を抜本的に修正するのも大変だし。だから色々仕切り直ししたくてモブサイコ描き始めたんじゃねーかな。サイコも120万部だから十分凄いんだけど。

 

ブリーチの師匠ですら微妙だったわけじゃん。尸魂界編をピークに、後はずっと。相変わらずキャラデザとネーミングセンスは神がかってたけど。アーロニーロ・アルルエリ。グリムジョージャガージャック。バンビエッタ・バスターバイン。閑話休題。そんなブリーチは凄く幽白リスペクトだった。幽介の一歩間違ったらそうなってたかもしれない未来として戸愚呂や仙水が敵として現れるって構図を、ブリーチも一護が一歩間違ってたらそうなってたかもしれない未来として十刃とか仮面の軍勢とか死神代行消失編の銀城とかで表現してた。ただ、幽白は面白かったけどブリーチはつまんなくなった。エルが死んだ後のデスノみたいに蛇足感が半端なかった。

 

ワンパンマンもブリーチ化すんのかな。すんだろーなー…。もう二度と本当の意味での「あの頃の続きのワンパンマン」を読めないのか。そう思うと、あの頃のファンとしてとても切なくなる。